2021年08月03日

単細胞的思考(上野 霄里:著)という本の前半の紹介と感想


本の感想はブログに書くつもりはなかったんだけど。
この本だけは特別。すごいから。
内容もすごいけど知名度の低さがまたものすごい。
再版されたりしているわりに、作者名を検索してもWikipediaさえ作られていない。
今どきそんな著者がいたのか。
ましてや本書の内容にいたってはネット上にはほとんど書かれていない。
かろうじてアマゾンレビューがあるくらいだけど、そこにも部分引用や絶賛する感想があるだけで、やっぱり本の内容はほとんど書かれていない。
それならぼくが書きましょうと。
そういうわけです。

上野霄里さんという方は昭和6年生まれの文筆家。
その方が昭和44(1969)年に書いたのが本書(おそらく代表作)単細胞的思考です。
内容はエッセイと言えばいいのかな。
作者の信念というか主張を、様々な比喩などを用いながら繰り返し表現しています。
何を言っているのかとても分かりにくい。
それもそのはず、作者は他人に理解されようとがんばることは恥ずかしいと考えているのです。
自分の心からの叫びだけに価値を置け、他人にどう思われるかを気にするな、既成の体系に価値を置くな。
そう主張します。
科学の発達も、経済の発展も、歴史の進歩も、一切意味がないというのです。
あらゆる組織や集団との関係をよくしようと励む行為は悪いことだと、そういうのです。
その主張から当然の帰結として、作者はものすごく尊大で、大衆を軽蔑しきっています。
とても面白いのですがとにかく難解だし部分部分には興味がわかないしで読み進めるのが苦痛で、途中で投げ出しました。なので半分しか読んでません。


それにしてもこれはむちゃくちゃ斬新!
こんな本が存在すること自体がもうすごいと思いました。
そしてこの本が有名でない理由もよくわかりました。
この本の内容に共鳴する人も多くいることだと思います。
けれどもこの内容に共鳴すればするほど、世間に向かって「こんな本があるよ!」って働きかけることには意味がないということになります。

最近ぼくはコロナ関連で再生産数という概念を知りました。
感染症にかかった人が何人にうつすかっていう数字で、1以上なら感染者が増えていくんですよね。
この本に触れた人が誰かに紹介する再生産数は1以下だと思う。
そうでなきゃネットが発達してるのにこんな個性的な書物がここまで知られてないなんてありえないと思う。

そして本書の知名度の低さについては時代の影響も強く感じました。
ネットが一般化した1995年以降の出版ならマニアには知られる本となり、ネタにもされ、伝説にもなったと思う。
でもそれよりはるかに前に埋もれてしまったトピックスが、時代をさかのぼってネット上に掘り起こされていくのはなかなか難しいのだろうと想像しました。

ひょっとしたらおじいちゃん界隈では有名な本なのかもしれませんね。
ネット上で本書に触れている数少ない方もほとんどが年配の方ではないかとお見受けしました。その方々がいなくなった時、本書は誰からも忘れられていくのかもしれません。

さて。ぼく個人のこの本の内容に対する考えです。
自分の心が大事だという点にはもろ手を挙げて賛成できます。
ただ、その自分とは何なのか。
ぼくは自分という概念に自分の生まれた時代、生きる社会、周囲の環境ということを織り込むことに抵抗はありません。
自分をよりよく生きるということが、社会をよりよく生きること(経済的安定を目指すとか)とほぼイコールであることを恥ずかしいとは思いません。
自分を生きるということは、もちろん自分の心に忠実に生きることでもあるでしょう。
でもそれだけではなくて、時代を生きる、社会を生きる、役割を生きる、立場を生きる、それらも全部自分を生きるということだと思います。
ぼくはそれらを全部やりたいし、というかそれらを放棄するという選択は全くあり得ないのですが、そのことを窮屈とも思っていないのです。


結局は好みの問題じゃないかな。
作者さんは熱烈に主張しているのですが、ぼくの感想としては「そう思いたいのならそう思っていればいいんじゃないでしょうか」というものです。
すごく刺激を受けて興味を持ったのは確かですが共感はしなかった。
でも共感はしないとはっきり言いきれるのはぼくの今までの数十年の人生経験があるからで、もしも若い時、社会とのかかわり方を確立する前に本書に出会っていたらきっと影響を受けていたと思います。
何も知らない時に断言されて煽られたらフラフラしちゃうよ。
若い時に本書に出会わなくてよかったとしみじみ思います。
でももし若い時に出会っていたら、その後今頃の歳になって、振り返って出会ってよかったと思っているかもしれないと思います。
それだけ影響力のある本です。こわいな。
(なお、ぼくは前半しか読んでいないので後半に全然違うことが書いてあったらごめんなさい。)

興味がある方は探して読んでください。
posted by じゃ。 at 02:29| Comment(0) | 雑文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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